夜明けの幻想

おなかの奥で

ぽっとドアがひらいた

夜明けだった

 

深い夜明けのひとみのずっと奥で

ぽっとドアがひらいた

ゆれている水の上のほてい草の花だった

 

あおいほてい草の茎のずっと奥で

ぽっとドアがひらいた

泥の中の一すじの魚だった

 

一すじの魚の夢のずうっと奥で

ぽっとドアがひらいた

灰色とあずき色の絶壁だった

 

そそりたつ絶壁のずうっと奥で

ぽっとドアがひらいた

文字のない匂いばかりの

でこぼこの本だった

 

いつのまにかめくられている

神さまのような本のずうっと奥で

ぽっとドアがひらいた

波がざわざわ

みんなひとりごとをいっていた

 

暗い波々のずうっと奥で

ぽっとドアがひらいた

小さな朱色の月だった

 

沈んでいく にじんでいる

朱色の月

眠っている海流の中で

ドアはしきりと鳴り

そのふるえている把手(とって)の先には

ぼくの髪の毛が

ひっかかっている

カテゴリー: みにくい象 — admin 23:54  コメント (0)
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