2009年11月30日
夜明けの幻想
おなかの奥で
ぽっとドアがひらいた
夜明けだった
深い夜明けのひとみのずっと奥で
ぽっとドアがひらいた
ゆれている水の上のほてい草の花だった
あおいほてい草の茎のずっと奥で
ぽっとドアがひらいた
泥の中の一すじの魚だった
一すじの魚の夢のずうっと奥で
ぽっとドアがひらいた
灰色とあずき色の絶壁だった
そそりたつ絶壁のずうっと奥で
ぽっとドアがひらいた
文字のない匂いばかりの
でこぼこの本だった
いつのまにかめくられている
神さまのような本のずうっと奥で
ぽっとドアがひらいた
波がざわざわ
みんなひとりごとをいっていた
暗い波々のずうっと奥で
ぽっとドアがひらいた
小さな朱色の月だった
沈んでいく にじんでいる
朱色の月
眠っている海流の中で
ドアはしきりと鳴り
そのふるえている把手(とって)の先には
ぼくの髪の毛が
ひっかかっている
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