祭り

四万八千日のちょうちんが

じゅんばんに目をあける

夕ぐれのみこしが

はるかのくらい森の石段を

くだっていったあと

くろあり色にうごきはじめる丘 丘

村はずれののきには

おきざりにされた日のへびが

こころぼそげにさまよっている

みんないってしまった

晴着をきて

ひぐらしのかぜが

坂道をめぐり

ほおずき色の目の女の子が

くれよんでおひめさまの顔をぬっている

はい色にそまりだした紙のそのくちびる

こだまのないふたりだけのおしゃべり

とんでいくよ いくよ

かきかけのおひめさまのそのうらがわの空を

かなしみのとんぼたちが

やさしい弓矢をいだいて

だれよりもはやく

みのりのたいこをうちに

とんでいくよ

 

むかえ火のたちこめている街道

四万八千日のかげ絵が

おもいおもいにゆれ

そのなかで

あの子のことばが

あめ色のいきをはきながら

ちりちり音をたてて

もえている

カテゴリー: みにくい象 — admin 23:58  コメント (1)

夜明けの幻想

おなかの奥で

ぽっとドアがひらいた

夜明けだった

 

深い夜明けのひとみのずっと奥で

ぽっとドアがひらいた

ゆれている水の上のほてい草の花だった

 

あおいほてい草の茎のずっと奥で

ぽっとドアがひらいた

泥の中の一すじの魚だった

 

一すじの魚の夢のずうっと奥で

ぽっとドアがひらいた

灰色とあずき色の絶壁だった

 

そそりたつ絶壁のずうっと奥で

ぽっとドアがひらいた

文字のない匂いばかりの

でこぼこの本だった

 

いつのまにかめくられている

神さまのような本のずうっと奥で

ぽっとドアがひらいた

波がざわざわ

みんなひとりごとをいっていた

 

暗い波々のずうっと奥で

ぽっとドアがひらいた

小さな朱色の月だった

 

沈んでいく にじんでいる

朱色の月

眠っている海流の中で

ドアはしきりと鳴り

そのふるえている把手(とって)の先には

ぼくの髪の毛が

ひっかかっている

カテゴリー: みにくい象 — admin 23:54  コメント (0)

みにくい象

わたしは目を閉じている小さな象である

喧噪そのものの夕暮れの往来を

ゆうゆうと歩く象である

わたしがみにくい小さな象ならば

あなたがたはいったいなんだろう

路上にちらばるあなたがたの影を

わたしは知らない

ただあなたがたの足音に

地を踏みしめるなどという

そんな真実めいたひびきを

わたしはふれることができない

あなた方の無限大にとどくすばらしい視野を

わたしは知らない

ただあなたがたのまじめな言葉の世界にさえ

そんなぼうぼうとしたひろがりを

わたしはふれることができない

 

二つの耳を帆のようにいっぱいに張りながら

自由に鼻をくゆらせながら

暗い町の入口の中へ

わたしは歩んでいく

カテゴリー: みにくい象 — admin 23:47  コメント (0)