2009年11月30日
風は
きのうやあしたのすきまから
ふいてくる
いろとりどりのろうそくの火を
はこびながら
風が
音をたてているのではなく
あれは
物たちのよろこびの声だ
よろこべば
物はみな
風のように旅ができる
炎の旅だ
ぼくは風のかげで
いつも風のまねをしている
風のことばは
雲の群の足音
あるいは走るけものの耳
にじみあがる夜明けの海のうねり
さけんでるさざえの帆
あるいはあえぎあえぎ夜を
もちあげつづけてる
樹木の骨
稲びかりする声のない声
風は眠れない
風の踊る手は
火をつける
ぼくも火をつける
みえない火事だ
世界の淵へむかって
静かな炎が
チカチカ
ひろがってゆく
カテゴリー:
声の風景 — admin 23:43
コメント (3)
のどをつめて
おばあさんになったソプラノ歌手が
ひとこえあげた
けれど
だれも
めざめはしなかった
おばあさんはどこへゆくのだろう
おおぜいの子供や孫たちをのせて
ぼくよりもましな友だちもいくにんかはのせて
みんなの枕がおばあさんの駅です
おばあさんのしずかなこえは
みんなの心臓のおとになっています
そして
みんなの夢にちいさな車の輪をつけています
ひとすじのかえるの卵の行列のような
おばあさんの列車が
いま
夜明けのはずれの
春の鉄橋を
わたってゆきました
カテゴリー:
声の風景 — admin 23:39
コメント (0)
ひよどりが鳴けば
空には
黄桃色の噴水ができる
その噴水のむこうには
樅の木や熟した柿の葉や
尾花や白旗雲がきらめいている
胡麻色の山山が
ゆっくり身をおこすと
空の芯は
静かな時計のように
けわしい雲の通り路に
おびただしい小石の雨をふらせる
けれど
ひよどりのこころには
なにもきこえない
鼓膜だけが寒そうにふるえている
田のくろの黒豆の繁みで
ひよどりの思い出は眠った
ふもとの村の
かげまつりのあの洞の底の
ひとすじの光芒のように
その眠りの水脈は
ほのめきながらきえては
カテゴリー:
声の風景 — admin 23:28
コメント (0)